「ひと」めぐり

あたたかい人の輪を生む餃子職人

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李 艶偉(リ エンイ)

中国黒滝江省出身 釧路市在住

1963年中国東北部に位置する黒滝江省生まれ。
1986年大学で鉱業学を学んだのち、中国でも最も大きい炭鉱会社のうちのひとつに入社。
日本語通訳として働く中、日本人であるご主人と出会い、18年前に釧路に移住。釧路では中国炭の貿易会社を設立した。
2015年、社内事業の一環として学生時代から学んできた餃子作りの経験を生かし「餃子職人育成講座」をスタートさせたばかり。
釧路市内の大学では中国語講師という側面ももつ。世話好きで正直な人柄から、学生や市民の人気を集めている。

「そうそう」「いいですね!」
まっすぐな眼差しで見つめ、微笑みながら手際よく餃子の皮を伸ばす生徒さん達を褒めていたのは、餃子職人の李 艶偉(リエンイ)さんだ。
まずは褒めてそのまま見守っておくのだが、生徒さん達は手を動かしていく中でなかなか納得がいかないポイントに当たる。
質問が自然に出たり、関門が訪れた頃にようやく詳しく丁寧に教えるというのが李さんのスタイルのようだ。
「失敗したり、上手くいかないという体験を繰り返してから教えないと吸収できない」と笑顔で語る。
今回はそんな李さんが行う餃子職人育成講座にお邪魔して、中国の伝統料理である餃子への熱い思いを伺った。

李さんの餃子

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具材を包み、ぐっと両手を合わせて皮を握る最後の動作が肝。
そうして作られた一つ一つ違う餃子のヒダが、手作りのあたたかさを象徴しているようだ。

ー 李さんのお作りになる餃子はどのようなものなのでしょうか?

日本では焼き餃子が主流だけど、中国人は基本的に餃子と言ったら水餃子。
私の水餃子はたれやスープは使わず、温かいうちに食べます。
肉と野菜は半々の分量で、むっちりした手作りの皮にジューシーな具材がよく合う自慢の餃子です。
中国の味付けは濃くて少し脂っぽいので、日本のみなさんが喜んでくれる餃子の味を研究しました。
それから大事なのは、餃子は「みんなの輪」を作ってくれるものということ。

ー 「みんなの輪」ですか。どういうことでしょうか?

まず健康面だけど、一つの料理であらゆる栄養を取れるということで、お年寄りも若い人もみんな同時に健康にさせるバランスが良い料理なの。
それから精神面。餃子はみんなで楽しみ、みんなで集まる時の料理ですよ。
みんなの友情のため、愛情のため、家庭やお友達同士の幸せな雰囲気を作れるものなんです。
今はなんでも加工食品をチンして雰囲気がないと思うけど…
家族みんなで作って、心もあたたかくさせてくれるものはなかなか他にはないと思う。

ー 精神面の伝承も餃子文化には欠かせないのですね!

はい、ですから餃子の職人さんが増えると街にあたたかい心も戻るし、幸せが増えます。
私は100人の職人さんが集まればどんな社会でも丸くできると思っているので、この街も餃子の力で幸せにできると思います。

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茹で加減もにもコツがある水餃子(左)と李さんがお母様から譲り受けた餃子の道具である、牛の角のヘラ(70年使用)と麺棒(右)

餃子職人を育てる

住んでいるこの街が元気になればいい。若い人がこの街に残るような魅力があるといい。
そのためには手に職をつけられる仕事が必要なのでは…そう考えた末、李さんは自分の持つ伝統的な中国餃子作りの技術を活用した「餃子職人講座」を開設した。

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ー この講座はどういった講座なのですか?

この講座は、本気で仕事を探したい人を支援するプログラム。
仕事に直接結びつけられるレベルまでに中国の餃子作りの技術を身につけてもらうもの。
そこまでの技術があれば就職もできるし、自分で商売も出来るから、数ヶ月かけて集中的に習得してもらいます。

ー なるほど、だから単なるお料理教室ではなく、「職人育成講座」なのですね

そう。仕事があれば、みんな釧路に住み続けることもできるし、外から人が来てくれて街が盛り上がりますよね。
そして、餃子を作れる人がたくさん増えれば有名な街になるでしょ?
周りの街の人たちが「美味しい餃子あるよ、釧路に行こう」って言ってくれたらいいなあと思って。
釧路といえば「餃子の街」と呼ばれるようにしたい、そういう夢があるの。

ー 釧路に来た当時から餃子文化を釧路の人に広めたいと思っていたんですか?

そうですね。釧路に来た18年前から思っていました。
1800年の深い歴史がある中国の餃子文化は、私にとってダイヤモンドみたいに特別な宝物です。
皆さんがよく食べている工場で大量生産しているものではなく、人の温もりを感じられる文化を伝えたかったんです。

ー ちなみに李さんの講座の生徒さんはどんな方々ですか?

とても優しい人たちですよ。自分の家族のために私の技術を習いたいって。
手で作るものは愛情があって、その愛情は子供に影響するから家族はうまくいくんです。
彼女達には、そういう餃子の意味の深さや義理人情、物事を見る深さなども一緒に伝えているところです。

ー 生徒さん達はどうやってこの講座を知ったのでしょうか?

以前、1年間だけ餃子専門店営業した経験があるのですが、その時のお客様の一人が「あの味が忘れられない」と探して探してこの講座を見つけてくれて、いま受講してくれているんです。
嬉しいことにそういうお声をよくかけていただけています。

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褒めて伸ばすのが李さん流(左)と片付けまで談笑しながら一緒にこなす(右)

日々、学び続ける

学時代始めた鉱業学、日本語、餃子の学びは今でも継続して行っているという李さん。
当然のように貫くその姿勢は中国の炭鉱会社での通訳時代に培われたものだそうだ。

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ー 大学時代はどのような勉強をされていたのですか?

1980年代の中国は経済成長期だったため、理系の大学が盛り上がっていたの。
中でも炭鉱業は一番さかんだったので私はその勉強と、炭鉱技術の優れた日本の語学習得に励んでいました。
卒業後は世界でも有数の大きな炭鉱会社に入社し、日本語通訳として仕事を任されました。
技術交流のため日本からやってくる鉄鋼メーカーや貿易会社が相手でした。

ー 餃子の技術はいつ習得したんでしょうか?

自分で一流の調理師から中華料理を習って、麺類と餃子を極めたの。
そして毎週毎週、家で修行したんです。
技術一つがあればどこでも食べていけると思っていたので、通訳の仕事をしながらずっと餃子の研究を続けていました。

ー 勉強に仕事に餃子の修行にと、大忙しですね。そんなパワフルな李さんに影響を与えた出会いはありますか?

専門家、経営者、技術者…と皆さんから学びましたが、中でも数十万人の従業員を抱える炭鉱会社の社長には一番影響を受けています。
私は社長室の隣で働いていたんだけど、社長は私を本当の子供みたいに可愛がってくれたの。
「誰でもあなたの前に現れた時点で、貧乏だろうが、地位があろうが、若かろうが、同じ気持ちで尊敬する気持ちを忘れてはいけない」という言葉が印象に残っています。まだ若いから毎日勉強しなさい、一ヶ月最低一冊本を読みなさいと教えられました。
命をくれたのは親。社会に出て一番精神を成長させてくれたのはその社長です。

ー そこで何事にも勉強し続けることをやめない李さんの姿勢が築かれたんですね。

そうですね。餃子の講師が現在メインですが、今も継続している通訳は本当に良い仕事だと思う。
毎回わからない新しい世界をいつも勉強できる。だからいつも知識を充電しなければならない。

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皮の生地を伸ばす職人芸(左)、人に教えるということも技術の向上となるため真剣に取り組む(右)

異国からの釧路の暮らし

意志が強く真面目な印象の李さんだったが、定期的に釧路の市民の人たちに餃子や鍋など中国料理を振る舞う会を主催するなど社交的な側面もある。
学生や開催店の常連客など、李さんの美味しい料理に引き寄せられた様々な人が集まる会だ。こうして釧路での暮らしを満喫している。

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ー この会はどうして始められたのですか?

日本では食べられない中国の料理を食べてもらって、みんなと交流するのが好きなんです。

ー なるほど、皆さんとても喜んでいるようですね。他にどんな風に釧路の街を楽しんでいますか?

自然や景色が綺麗なのでよく見に行きます。
特に好きなのが、餃子講座でお借りしている「まなぼっと」※1の9階展望レストランでの素晴らしい風景。
そこから見える幣舞橋※2と海がとても綺麗ですね。

※1 釧路市生涯学習センター「まなぼっと幣舞」:ホール、美術館、各種工芸スタジオ、クッキングスタジオ、和室、茶室、多目的ホール、会議室などを備えた複合施設。
※2 幣舞橋:1889年(明治22年)より釧路川の下流に架けられた。夕日が綺麗に見えるスポットとして有名で、釧路駅前通「北大通」の橋でもある。

ー 海がお好きなんですね。海のある釧路はぴったりの街ですね!

はい。悩んだ時、恋問※3の海をよく見に行きます。
私は内陸の生まれだったので、22歳の時まで海を見たことがなかったの。
だから海は特別で、海を見ると自分の夢はまだまだ深いんだなと思えて、ストレスがなくなります。

※3 恋問:釧路市に隣接する白糠町の恋問海岸は夏にははまなすが先、秋冬になると夕日が美しいため映画のロケ地としても使われた。道の駅「恋問館」も人気の観光スポット。

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幣舞橋から見える海の景色(左)、李さんがよく行くという恋問海岸(右)

李さんはすごく正直な人だ。しっかりと意思表示をし、自分を隠さない。
同時にものすごく聞き上手だ。会話のプロとしてだからだけでなく、相手を敬うという概念が心の中にしっかり存在しているため、最後まできっちり話を理解しようとしてくれる。相手の気持ちを引き出す質問もとにかくうまい。
李さんのこの言葉が彼女の姿勢を見事に捉えている。
「たくさん人のことを思えば、たくさんの人から思われるようになります。」

李さんは「隠したら気持ちが疲れる。まあ、その性格のおかげで悪い印象を持たれる時もあるけどね」といたずらそうに笑っていた。
そういうオープンな人柄に加え、人懐っこさも持ち合わせているからこそ李さんに魅了される人が後を絶えないのだろう。
いつも心を忙しく走らせている人は、時には家族や友人と餃子をゆっくり作ってみてはいかがだろうか。
ふと、人を敬い、餃子に愛情を持って生き続ける李さんの顔が浮かび、身の回りの人達の大切さに気付かされるかもしれない。

李さんと出会うには?
クスろにご連絡ください。
info@kusuro.com

李さんに出会える!『グローバル収穫祭』
釧路地域の魅力的な海外の方々に出会える食のマーケット「グローバル収穫祭」で李さんに出会えます!
収穫の季節、魚や野菜など釧路地域にも様々な旬の食材が美味しい時期。
その食材を使って、釧路に住んでいる海外のみなさんに各国のお国料理をふるまってもらいます!
その名も「グローバル収穫祭」日時は11/14(土) 10:30〜14:00まで。
場所は鉄北中央会館です(三十間道路の一本裏にあります)
李さんは阿寒ポークを使用した、美味しい『水餃子』を提供してくださいます!
食数は限られておりますのでぜひお早めに足をお運びくださいね!

ぼりの編集後記
bori” width=李さんの餃子パーティーに参加させていただきました!
この日いただいたのは牛肉とラム肉の餃子。もっちりとした皮の中にはジューシーな具材が。ラードが少なく野菜はたっぷり、あっさり味なので、パクパク沢山食べられてしまいます。具材のレパートリーは数十種類を超え、まだまだ増加中だとか。
茹でたての餃子は心まであたたかくなり、その場にいるご家族やお友達を笑顔にする魔法のお料理でした〜!
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