「ひと」めぐり

今日ものんびり穏やかに。釧路に移住してきたカレー屋さん

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鎗田武志

静内町出身 釧路市在住

札幌の美容学校を卒業し、美容室、服屋、ジーンズ販売店、本屋、スポーツ用品店アウトドア売場担当、居酒屋経営など職歴多数。
現在、海がちょっとだけ見える丘に建つカレー屋兼自宅で奥様と二人暮らし。
その経歴や個性を生かし、ラジオ局FMくしろにも出演中。

釧路市富士見。高台に位置しているため、閑静な住宅街ではあるが思いがけず家々の間から海を臨くことができる地域だ。
そんな中、一風変わった古民家がある。赤い屋根、カラフルな旗、ドアの横で手を広げているウサギの置物。
イッケンヤカレーコミン(以下、コミン)は2014年の秋、ご近所さんや知り合い数人に案内をしただけで、ひっそりとオープンした。

古民家がカレー屋さんになりました

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札幌から移住してきた店主の鎗田さんは築40年の古民家を改築して、カレー屋を始めた。
「コミン」という店の名前は、「古民家」から来ているだけでなく、「Come in(どうぞいらっしゃい)」という意味も込められているという。

ー コミンでは、どんなカレーを出しているんですか?

中札内産チキンを煮込んで線維をバラバラにした、ご飯がすすむカレーをご提供しているよ。
僕が大好きな札幌南区にあるカレー屋さんのカレーを参考にしていて、新たにゴボウなどを入れてオリジナルレシピを作りました。
チキンの線維が弦みたいなので、僕は「ストリングカレー」と呼んでいるよ。
それから、せっかく釧路に住んでいるので、食材は出来る限り道東産、北海道産の食材を使わせて頂いてるんだ。

ー ルーカレーでもなくスープカレーでもない、オリジナルのカレーなんですね

そうだね。今ご提供しているカレーは釧路ではあまりないものだと思うよ。
ひとつのメニューでどこまで行けるかチャレンジしています。

ー お店に置いてある小物も、ユニークで気になるものが多いですね

基本的には僕の好きなものを置いていて、もの同士の関連などについても気を付けてるんだ。
お店の中に何か好きなものがあれば、必ずそれと関連付けられるようにしているので、どんどんと繋がっていくようになっている。
でも、ひとつも好きなものがなかったらごめんなさい笑

ー これだけ本や雑貨があれば何か見つかると思いますよ笑
 特に一番目立っている、店先の大きなウサギの置物は印象的ですね。

この店のマスコットで、この子がいないと店を開けたくない!というくらい大事なもの。
それから僕は音楽が好きなので、「いい音楽がたくさん聞けますように」という願いが込められている。ウサギは耳が大きいからね笑

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自慢の「ストリングカレー」(左)と季節によって衣装が様変わりするウサギの置物(右)

ここにしかいない人がいる街

鎗田さんは「長年釧路でお店を構えることが夢だった」と語る。
なぜそこまで釧路に惚れ込んでいったのか。それは、今から遡ること13年。キーとなる、この街との出会いについて訊ねてみた。

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ー 最初に釧路へ来た時の印象はどうでしたか?

当時勤めていた本屋さんで釧路に転勤になったんだけど、正直釧路のイメージは「ただただ遠い」とか「あんまり陽が差さない」というマイナスイメージしかなかった。
でも実際に住み始めて、街の色々なお店に出入りするようになって、そこに来るお客様やオーナーさんと出会って交流するうちに、どんどん釧路の人の魅力に取り憑かれていったんだ。

ー どんな方との出会いがあったのですか?

具体的には、釧路市内のジャズ喫茶のオーナー、カレーの師匠のご夫妻、バーの店主さん。
市外では、スープカレー屋さん、ネイチャーガイドさん、私設美術館のご夫妻…数え挙げたらきりがないのでこの辺でやめておきます笑

ー たくさんですね!その方々のどこに魅力を感じたのでしょうか?

皆さん、共通して強烈な個性があった。そしてそこに集まる方達も魅力的だった。
僕はそれに心底憧れて、その人たちの仲間に入れて欲しくなった。
その時、僕は会社員だったんだけど、「一から十まで自分で作りあげたお店が欲しい」と痛切に思ったんだよね。

ー 会社員時代はどのような働き方だったんですか?

服屋、ジーンズ販売店、本屋という会社員時代、20代前半で数店舗の店長を任されたり上司には高い評価もされていて、
本当にお恥ずかしいんだけど、かなり天狗になっているところがあったんだ。
根性は付いたけど、仕事ができるとか思ってて、プライドもすごく高かった。
だけど釧路の人たちに出会ってそんなことは大事じゃないって教えてもらったの。
色んな人が居て、それを受け留めて争わないことが大事だって。それを理解した上で、組織という枠内ではなく、自分らしい世界を作って、柔らかく人と関わっていきたいって思ったんだ。

本屋さん時代店長を任された時の店舗(左)と鎗田さんが毎日ディスプレーを変えていた店内の様子(右)

海の見える古民家

かけがえのない釧路の人達と出会い、まちに魅了されながら刺激的に過ごした2年間。
だがその後、転勤によって釧路を離れることが決まった。
鎗田さんは別れを惜しみながら「いつかまたここに帰ってくる」と誓ったという。
その後、「自分のお店を持ちたい」という夢を札幌で叶え、居酒屋を8年間経営するも2014年7月釧路へ移住。
それもまたずっと忘れずにいた夢であった。

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ー どうして釧路の中でもこの物件をお店に選んだのですか?

実は、ここの場所を最初に決めたのは奥さんなんだよ。
僕としては、商売の経験上、人がたくさん集まりそうな場所で物件探し、と思っていたんだけど、うちの奥さんからは怒られちゃったんだよね。

ー 奥様に怒られたんですか?

「そもそも何のために、釧路に行くの!」って。
僕らはそろそろ、自分たちの責任を負えるサイズで、釧路でのんびり暮らしたかった。それが夢だったから。
でも当時札幌のお店にもたくさんのお客様が来てくださっていた。
その8年間続けた愛するお店を閉めてまで行くんだから、その人たちが、「こういうところに住んで、こういうお店がしたかったんだな」と理解してもらえる場所を選ばないとと。それを考えた時に、「釧路らしい、海の見える高台」で物件を探そうと思ったんだよね。

ー その後、物件探しはどのように進んだのですか?

2年間かかって、とっても苦労したよ。
ある日築80年の古民家があると知り、かなり期待していたんだけど実際は程度が悪くて、僕らは諦めたんだよね。
物件を見た帰り道うちの奥さんが一人しょんぼりして歩いていたら、偶然向かいから知り合いのカレー屋さんが歩いてきたの。
物件の話をしたら、「それなら良い物件があるよ」と紹介してくれることになったんだ。

ー すごい偶然です!

もし反対の歩道を歩いていたら会えなかったからね。
そして、いざその物件を見た時に、うちの奥さんの目がハートになっちゃって笑。
「すぐ買おう!」って背中を押してくれたんだ。

ー そんなドラマがあったんですね。
 でも古民家を改修して今のお店になるまでは大変だったのではないですか?

床や天井の張替えとか、自分でできるところは自分でやったんだ。ノコギリ3本ダメにしちゃった笑
とはいえ専任の大工さんにお願いした箇所もあるんだけど、僕が希望を伝えれば、「こればどう?」と提案してれる方で、それを設計図を描かずに1日で仕上げてくださった。
その方ともフィーリングが合ったのかなあ。音楽で言うとジャズのアドリブ演奏みたいなリフォームだったな。

ー 面白い表現ですね。楽しそうな光景が浮かびます

確かに楽しかったけど、改修のために数ヶ月一人暮らしをしていたので寂しがりやの僕にとっては孤独の日々だった笑
でも札幌から友達が応援に来てくれたり、釧路の知り合いも様子見に来てくれたりしてなんとか寂しさを紛らわせてくれたんだ。

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奥様の美穂さん(左)と全て自分でやったという床張りの様子(右)

お客様と一緒にのんびり続けていきたい

ようやく準備が整いオープンしたのちも、毎日ディスプレイを変え、POPを変え、手作りのオブジェを飾る。
店内に小さな変化を作り続ける鎗田さんが、大切にしているもの。それはお客様にとって楽しいかどうか、と シンプル。
コミンの店内は、「ものが多くて落ち着かない」というよりはむしろ、そのインテリアや照明のおかげで楽しくも和やかで、不思議とリラックスしてしまう空間になっている。

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ー お店をやるにあたって、大事にしていることはありますか?

お客様が楽しい空間を作ること。それも売れ線とかを狙うのではなく、僕が本当に好きなもので。
カレーを作っている時に「わー」とか「かわいい」とか客席から笑い声が聞こえると、単純なんで「よっしゃ」ってなるし笑、また何して喜んでもらおうって考えてわくわくするんだ。

ー 本当に人に喜んでもらうことがお好きなんですね

お客様は、時間とお金を使って、こんな分かりにくいところにわざわざ来てくださるんだから、できるだけおもてなししたい。
僕ができることは限られていて、カレーを作ることとこの空間を作ることしかできなくて、あとは待ってるだけ。
だから、お客様にいらしてもらったら、すごく嬉しいしありがたいよ。

ー 開業から半年ほどで夜の営業も始めたのですね。何かきっかけはあるのですか?

仲の良い知り合いの人に、「コミンさん、夜も開いてたらいいのになあ」って言われたのがきっかけ。
夜にパソコン開いたり、本読んだりお茶したり、「自分の部屋がもう一つ増えた」と思ってもらえるような場所を作りたいと思ってるよ。
僕も夜の雰囲気が好きだし、夜になるとお店の雰囲気も変わるんだよね。

ー これから先、どのようなお店にしていきたいですか?

無理に毎日やるよりは、のんびり長く続けられたらといいかなと思っていて、そのために夜の営業は不定休にしてる。
例えば、30年後も「まだメニューひとつでやっているのか、この店」なんて言われながら、無理なく続けていきたいなあと思ってるよ。

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夜営業の雰囲気
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オレンジの間接照明が居心地の良い空間を作り出す
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信条にしているという言葉が書かれたTシャツ

鎗田さんは「自分にできるのはここまでだよ」と謙遜しながらも、一方でご自身でできることについては手間ひまを惜しまず、言葉には出さずこつこつと積み重ねていく職人肌の人だ。
釧路にいる魅力的な人たちとの出会いは、鎗田さんの人生を変え、一軒の古民家をカレー屋に変えた。
富士見の海の見える古民家。店内には、今日も心地よい音楽が流れている。
店先のウサギは「Come in(どうぞいらっしゃい!)」と両手・両耳を広げて出迎えている。

鎗田さんと出会うには?
イッケンヤカレーコミン
釧路市富士見3-3-15
11:45〜15:30(15:00L.O.) 日・月・祝 定休
ヨルコミン19:00〜21:30(21:00L.O.)
不定日営業(営業日はブログにてお知らせ)
blog:http://comin.blog.jp/

釧路地域の魅力的な手作り作家に出会える『ブイブイマーケット』
2015年7月18日に開催した、『ブイブイマーケット』はコミンさんの駐車場で開催させていただきました!
当時、開催場所に悩んでいた私たちに鎗田さんは「コミンの駐車場使っていいよ!」と提案してくださり、
準備中もアドバイスをくださったり、いろいろな場面で協力してくれました!
イベント当日はコミンのカレーを食べたい!というお客様も多く、通常の2倍用意したカレーもあっという間に完売していました!
ブイブイマーケットレポートにも詳しく書いていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください!

なぐの編集後記
boriストリングカレーをいただいてきました。チキンの線維のひとつひとつにしっかりと味が染みこんでいて、よく噛んで食べたくなるような、味わい深いカレーです。
釧路の新たなソウルフードですね!
また、店内には気になるものが多いので、注文をしてから料理が出てくるまで、お店の中をきょろきょろと見回してしまいます。あなたのお気に入りも置いてあるかも!?ぜひ一度訪ねてみてくださいね!
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